【お腹の中で赤ちゃんは一生分の成長をする】第3回 赤ちゃんの脳をつくる栄養

03 赤ちゃんの脳をつくる栄養――“食べる量”より“材料”の視点

第3回 赤ちゃんの脳をつくる栄養

前回は、妊娠初期に大切な「葉酸」についてお伝えしました。

葉酸は、赤ちゃんの脳や脊髄のもとになる神経管の形成に関わる、とても大切な栄養素です。

では、葉酸さえ摂っていれば、赤ちゃんの脳の発達は十分なのでしょうか。

もちろん、そうではありません。

赤ちゃんの脳は、ひとつの栄養素だけでつくられるわけではありません。神経細胞、神経同士のつながり、細胞膜、血液、ホルモン、神経伝達物質、ミエリンと呼ばれる神経の情報伝達を助ける構造など、さまざまな材料が必要になります。

その材料になるのが、毎日の食事から入ってくる栄養です。

ただし、ここで最初にお伝えしておきたいことがあります。

妊娠中の食事は、思い通りにいかないことがたくさんあります。

つわりで食べられない時期もあります。ご飯の匂いが無理になることもあります。昨日まで食べられたものが、急に受けつけなくなることもあります。忙しさや上のお子さんの育児で、ゆっくり食事ができない方もおられると思います。

ですから、この回は「ちゃんと食べないと赤ちゃんに悪いですよ」と責めるための内容ではありません。

赤ちゃんの脳をつくる栄養を知ることで、できる範囲で食事を整え、必要な場合は産婦人科で相談し、お母さん自身の体も守るための視点として読んでいただければと思います。


赤ちゃんの脳は、たくさんの材料からつくられます

赤ちゃんの脳は、妊娠中から出生後にかけて、ものすごいスピードで発達していきます。

神経細胞が増え、必要な場所へ移動し、神経同士がつながり、情報をやり取りするネットワークが育っていきます。その過程では、細胞をつくる材料、エネルギーを生み出す栄養、酸素を運ぶ血液、ホルモンの働き、炎症を抑える力などが関係します。

妊娠中の栄養と子どもの神経発達に関する総説では、母体の栄養状態は胎児の脳発達に関わる重要な要素のひとつとして整理されています。ただし、栄養だけで子どもの発達がすべて決まるわけではありません。遺伝、胎盤、妊娠経過、出生後の環境、睡眠、親子の関わりなど、多くの要因が重なって発達は進みます。

そのうえで、妊娠中の栄養は、赤ちゃんが育つ環境を支える大切な土台です。

機能性医学の視点では、栄養を「カロリー」だけでは考えません。

食べた量だけでなく、何を食べているか、消化できているか、吸収できているか、血糖が大きく乱れていないか、炎症が強くないか、睡眠や自律神経が乱れていないか。そうした体全体のつながりとして栄養を見ていきます。

神戸市北区や三田市周辺でも、妊娠中に「体重は増えているけれど、疲れやすい」「食べているのに栄養が足りている気がしない」「甘いものやパンに偏ってしまう」という方は少なくありません。

大切なのは、食べる量だけでなく、赤ちゃんとお母さんの体を支える材料が入っているかどうかです。


まず大切なのは、体をつくるタンパク質

赤ちゃんの脳をつくる栄養として、まず大切にしたいのがタンパク質です。

タンパク質は、筋肉だけの材料ではありません。血液、酵素、ホルモン、免疫、神経伝達物質、胎盤、子宮、赤ちゃんの体そのものをつくるために必要です。

脳の発達というと、DHAや葉酸のような栄養素が注目されやすいですが、それらが働くためにも、体全体の材料となるタンパク質が必要です。

妊娠中にタンパク質が不足しやすい方には、いくつかの特徴があります。

・朝食がパンとコーヒーだけになりやすい
・昼食が麺類やおにぎりだけになりやすい
・肉や魚を食べると胃が重くなる
・卵や魚をあまり食べない
・甘いものや果物で空腹を満たしやすい
・つわりで炭水化物中心になっている

もちろん、つわりの時期に食べられるものが限られるのは仕方ありません。無理に肉や魚を食べようとして、余計につらくなる必要はありません。

ただ、少し食べられる時期になってきたら、毎食どこかにタンパク質を足せないかを考えてみてください。

卵、魚、鶏肉、豆腐、納豆、ヨーグルト、味噌汁に豆腐を入れる、具だくさんのスープにする。小さな工夫で、食事の質は変わります。

妊娠中は「何を抜くか」よりも、「何を足すか」で考えるほうが、心にも体にもやさしいです。


鉄は、酸素を届けるためにも脳の発達にも大切です

妊娠中に不足しやすい栄養素の代表が鉄です。

鉄は、血液中のヘモグロビンをつくり、酸素を運ぶために必要です。妊娠中は血液量が増え、赤ちゃんや胎盤にも酸素と栄養を届ける必要があるため、鉄の需要が高まります。

WHOは、妊娠中の女性には鉄と葉酸の必要量が増えると説明し、鉄欠乏や貧血のリスクを下げるために、鉄と葉酸の補給を妊婦健診の一部として推奨しています。

鉄は、お母さんの疲れやすさ、息切れ、めまい、動悸、冷え、集中力の低下などにも関わることがあります。妊娠中の不調がすべて鉄不足で説明できるわけではありませんが、貧血や鉄の状態は見落としたくないポイントです。

また、鉄は赤ちゃんの脳発達にも関係します。神経細胞のエネルギー代謝や神経伝達、ミエリン形成などに関わると考えられています。

ただし、鉄も自己判断でたくさん飲めばよいものではありません。

鉄剤で胃が気持ち悪くなる方、便秘になる方もいます。鉄が本当に不足しているか、どの程度必要かは、血液検査や妊娠経過を見ながら、産婦人科で相談することが大切です。

食事では、赤身肉、魚、卵、貝類、大豆製品、青菜などを意識します。植物性食品に含まれる鉄は吸収されにくいため、ビタミンCを含む野菜や果物と一緒に摂るとよいとされています。

コーヒーやお茶を食事と一緒にたくさん飲むと、鉄の吸収に影響することがあります。妊娠中のカフェイン量にも関わるため、飲み方は少し意識しておくとよいでしょう。


DHAなどの脂質は、脳の細胞膜の材料になります

脳は脂質が多い臓器です。

そのため、赤ちゃんの脳を考えるうえで、脂質はとても大切です。脂質というと、太る、控えたほうがいい、というイメージを持つ方もおられるかもしれません。

しかし、脂質には質があります。

揚げ物や加工食品に偏った脂質と、魚に含まれるDHAやEPA、卵やナッツ類、オリーブオイルなどに含まれる脂質では、体の中での働きが異なります。

DHAは、脳や網膜に多く存在する脂肪酸として知られています。妊娠中のオメガ3脂肪酸やDHAの状態は、胎児の脳や視覚発達との関係が研究されています。ただし、DHAサプリを飲めば頭がよくなる、というような単純な話ではありません。

大切なのは、魚を含めた食事全体のバランスです。

魚はDHAのよい供給源ですが、妊娠中は水銀の問題があるため、魚の種類や量に注意が必要です。大型魚に偏らず、産婦人科や公的機関の情報を確認しながら、無理のない範囲で取り入れることが大切です。

魚が苦手な方、匂いで気持ち悪くなる方は、無理をする必要はありません。卵、豆腐、味噌汁、良質な油を使った料理など、食べられるものから整えていきましょう。


ヨウ素と甲状腺ホルモンは、脳発達と関係します

赤ちゃんの脳発達を考えるうえで、ヨウ素も大切な栄養素です。

ヨウ素は、甲状腺ホルモンをつくるために必要です。甲状腺ホルモンは、妊娠中の赤ちゃんの脳や神経の発達に関わります。特に妊娠初期は、赤ちゃん自身の甲状腺機能がまだ十分ではないため、お母さんの甲状腺ホルモンの状態が重要になります。

ヨウ素は、海藻類に多く含まれます。

日本人は昆布やわかめ、のりなどを食べる習慣があるため、ヨウ素が不足しにくい一方で、昆布だしや海藻を過剰に摂ると、ヨウ素が多くなりすぎることもあります。

つまり、ヨウ素は不足も過剰も注意が必要な栄養素です。

「赤ちゃんの脳に大切なら、海藻をたくさん食べればいい」という単純な話ではありません。

甲状腺の病気がある方、甲状腺の数値を指摘されたことがある方、妊娠中に強いだるさ、寒がり、むくみ、動悸、体重変化などが気になる方は、自己判断でサプリや海藻を増やすのではなく、産婦人科や専門医に相談してください。


ビタミンB群、コリン、亜鉛も脳の働きに関わります

赤ちゃんの脳をつくる栄養は、タンパク質、鉄、脂質、ヨウ素だけではありません。

ビタミンB群は、エネルギー代謝、細胞分裂、神経の働きに関わります。前回お伝えした葉酸も、ビタミンB群の仲間です。ビタミンB12は、葉酸と一緒に働き、赤血球や神経の健康にも関係します。

コリンも、妊娠中に注目される栄養素のひとつです。コリンは細胞膜や神経伝達物質に関わり、胎児の脳発達との関連が研究されています。卵、肉、魚、大豆製品などに含まれます。

亜鉛は、細胞分裂、免疫、味覚、ホルモン、傷の修復などに関わるミネラルです。赤ちゃんの体が成長する妊娠中には、こうした微量栄養素も大切になります。

ただし、ここでもサプリメントを増やせばよいという話ではありません。

妊娠中は、栄養素同士のバランスも大切です。亜鉛を多く摂りすぎると銅とのバランスに影響することがありますし、ビタミンAのように過剰摂取に注意が必要な栄養素もあります。

妊娠中のサプリメントは、必ず産婦人科で確認し、自己判断で高用量を重ねないようにしてください。


つわりの時期は「食べられるもの」からで大丈夫です

妊娠中の栄養の話をすると、つわりで食べられない方ほど不安になることがあります。

「栄養が大切なのはわかるけれど、今は食べられない」
「白米、パン、果物、ゼリーくらいしか入らない」
「肉や魚を見ただけで気持ち悪くなる」

このような時期に、理想的な食事を目指すのは現実的ではありません。

つわりが強い時期は、まず脱水を防ぐこと、食べられるものを少しずつ摂ること、体重減少や嘔吐が強い場合は産婦人科に相談することが大切です。

落ち着いてきたら、少しずつ栄養を戻していけば大丈夫です。

たとえば、パンだけだった朝食にゆで卵を足す。おにぎりだけだった昼食に味噌汁を足す。麺類に卵や豆腐を加える。果物だけでなくヨーグルトを添える。食べられる魚や肉を少量から試す。

完璧な献立ではなく、「少し足す」ことから始めましょう。

妊娠中の食事は、努力のテストではありません。お母さんと赤ちゃんが、その時期を少しでも楽に乗り越えるための支えです。


赤ちゃんの栄養を考えることは、お母さんの体を守ることでもあります

妊娠中は、つい「赤ちゃんのために」と考えがちです。

もちろん、それは自然な気持ちです。

でも、お母さんの栄養状態が整うことは、赤ちゃんのためだけではありません。お母さん自身の体力、睡眠、気分、免疫、産後の回復にも関わります。

妊娠中に疲れが強い、気分が落ち込みやすい、眠りが浅い、便秘がつらい、甘いものがやめられない、肩や首がこりやすい、呼吸が浅い。こうした不調の背景には、栄養、血糖、自律神経、胃腸、ホルモンの乱れが関係していることがあります。

神戸市北区のもみの木鍼灸整骨院では、鍼灸院として体の緊張や自律神経の状態を見ながら、機能性医学の視点も大切にしています。

妊娠中の症状は、まず産婦人科での確認が基本です。そのうえで、体のこわばり、睡眠の乱れ、慢性的な疲労感、胃腸の不調などが気になる場合は、無理のない範囲でご相談ください。


第3回のまとめ

赤ちゃんの脳は、ひとつの栄養素だけでつくられるわけではありません。

タンパク質、鉄、DHAなどの脂質、ヨウ素、ビタミンB群、コリン、亜鉛など、さまざまな栄養素が関わりながら、脳と神経の土台が育っていきます。

ただし、妊娠中の食事は理想通りにいかないことも多いです。

大切なのは、完璧な食事を目指すことではありません。食べられるものを大切にしながら、少しずつ材料を足していくことです。

赤ちゃんの脳をつくる栄養を考えることは、お母さん自身の体を守ることでもあります。

次回は、妊娠中の血糖と赤ちゃんの発達についてお伝えします。


参考文献

Maternal Nutrition and Neurodevelopment: A Scoping Review
Maternal Nutrition during Pregnancy and Offspring Brain Development in Humans
Daily iron and folic acid supplementation during pregnancy
Iodine supplementation during pregnancy
Choline Supplementation in Pregnancy: Current Evidence and Implications


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