【産後OCD・侵入思考】第1回 「赤ちゃんを傷つけたらどうしよう」と考えてしまうママへ

第1回 「赤ちゃんを傷つけたらどうしよう」と考えてしまうママへ
赤ちゃんが生まれて、幸せなはずなのに。
寝顔を見ると、かわいくて胸がいっぱいになる。小さな手を握ると、「この子を守りたい」と心から思う。それなのに、ふとした瞬間に、自分でも信じられないような怖い考えが頭に浮かんでしまう。
「もし、この子を落としてしまったらどうしよう」
「お風呂で、もし沈めてしまったらどうしよう」
「包丁を見た瞬間に、変なイメージが浮かんでしまった」
「こんなことを考える私は、母親失格なのではないか」
そんな考えが浮かんだあと、胸がぎゅっと苦しくなり、赤ちゃんを見るのが怖くなることがあります。
でも、最初にどうしてもお伝えしたいことがあります。
その怖い考えが浮かんだことと、あなたがそれを望んでいることは、まったく別です。
むしろ、「絶対にそんなことをしたくない」「この子を守りたい」と思っているからこそ、その考えに強く傷つき、怖くなっていることがあります。
このシリーズでは、産後OCD・侵入思考について、できるだけやさしく、でも医学的に誠実にお伝えしていきます。神戸市北区や三田市周辺で、産後の不安、産後うつ、育児中の自律神経の乱れ、眠れないつらさを抱えているママにも、「私だけじゃなかった」と思っていただける内容にしていきます。
「怖い考え」は、本心とは限りません
産後のママが苦しみやすいもののひとつに、「侵入思考」というものがあります。
侵入思考とは、自分では望んでいないのに、頭の中に勝手に入り込んでくる考えやイメージのことです。
たとえば、高い場所に立ったときに「落ちたらどうしよう」と一瞬よぎることがあります。車を運転しているときに「もし急にハンドルを切ってしまったら」と怖くなる人もいます。
もちろん、その人は本当に落ちたいわけでも、事故を起こしたいわけでもありません。むしろ、「そんなことは絶対に起きてほしくない」と思っているからこそ、怖くなるのです。
産後の場合、その対象が赤ちゃんになることがあります。
赤ちゃんは小さくて、やわらかくて、まだ自分では身を守ることができません。抱っこ、お風呂、授乳、寝かしつけ、爪切り、階段の上り下り。毎日の何気ない育児の中に、「もし失敗したら」と感じる場面がたくさんあります。
そこに寝不足や疲労、ホルモンの変化、責任感が重なると、脳が危険を過剰に探し続けてしまうことがあります。
「この子を守らなければ」
「絶対に失敗してはいけない」
「私がちゃんと見ていなければ」
この強い責任感が、いつの間にか怖いイメージとなって現れることがあるのです。
産後OCD・侵入思考は、決して珍しいものではありません
産後OCDとは、妊娠中から産後にかけて起こる強迫症、または強迫症状のことです。何度も浮かぶ怖い考え、確認せずにはいられない行動、避けずにはいられない行動などが続き、生活や育児がつらくなることがあります。
周産期OCDについての総説では、産後の強迫症状として、赤ちゃんへの危害に関する侵入思考、汚染への不安、過剰な確認、回避行動などがよく見られると整理されています。もちろん、すべての侵入思考がOCDというわけではありません。ただ、産後にこのような症状で苦しむ方は、決して少なくないと考えられています。
大切なのは、「こんなことを考えるなんて、私はおかしい」と決めつけないことです。
産後は、身体も心も大きく変化しています。出産で体力を使い、授乳や夜泣きで睡眠が細切れになり、食事もゆっくり取れない。自分の回復よりも赤ちゃんのお世話が優先になり、気づかないうちに心身が限界に近づいていることもあります。
その状態で、怖い考えが浮かんだとしても、それはあなたの人格の問題ではありません。
「母親としての愛情が足りないから」でもありません。
「赤ちゃんを大切に思っていないから」でもありません。
むしろ、赤ちゃんを大切に思っているからこそ、その考えが怖くてたまらないのです。
怖い考えを誰にも言えないつらさ
産後OCDや侵入思考がつらいのは、考えそのものが怖いだけではありません。
それを誰にも言えないことが、さらにママを追い詰めます。
夫に言ったら、引かれるかもしれない。
親に言ったら、責められるかもしれない。
助産師さんや医師に言ったら、赤ちゃんを取り上げられるかもしれない。
「危ない母親」と思われるかもしれない。
そう思うと、言葉にできません。
だから、表面上は普通に育児をしているように見えても、心の中ではひとりで泣いているママがいます。赤ちゃんを抱きながら、自分の頭に浮かぶ考えに怯え、「私は母親失格だ」と自分を責め続けているママがいます。
でも、ここで知っておいてほしい研究があります。
産後のママに起こる、赤ちゃんへの危害に関する望まない侵入思考と、実際に赤ちゃんへ危害を加えるリスクとの関係を調べた研究では、望まない侵入思考やOCDが、乳児への身体的攻撃リスクの増加と関連する証拠は見られなかったと報告されています。
これは、とても大切な知見です。
もちろん、すべてを自己判断してよいという意味ではありません。つらさが強い場合や、日常生活に大きく支障が出ている場合は、専門家への相談が必要です。
ただ、「怖い考えが浮かぶ=危険な母親」と単純に結びつける必要はない、ということです。
考えないようにすると、余計に浮かぶことがあります
怖い考えが浮かぶと、多くの人は「考えないようにしよう」とします。
でも、実はこれが逆に苦しさを強めることがあります。
「赤ちゃんを落とすことを考えてはいけない」
「包丁を見て変なことを考えてはいけない」
「お風呂で怖い想像をしてはいけない」
そう思えば思うほど、脳はそのことを意識してしまいます。
白いクマのことを考えないでください、と言われると、白いクマが頭に浮かぶのと似ています。考えを消そうと強く頑張るほど、その考えが重要なもののように感じられてしまうのです。
また、不安を下げるために、何度も確認したり、特定の場面を避けたりすることもあります。
・赤ちゃんの呼吸を何度も確認する
・刃物を使う場面を避ける
・赤ちゃんと二人きりになるのが怖くなる
・お風呂に入れるのを家族に任せたくなる
・自分の考えが危険ではないか何度も検索する
これらは、ママが怠けているからではありません。赤ちゃんを守りたい、不安を減らしたいという必死の行動です。
ただ、その行動が続くと、脳が「やっぱりこれは危険だから避けなければいけない」と学習してしまい、不安が長引くことがあります。
だからこそ、産後OCDや侵入思考は、気合いや根性で何とかするものではありません。正しく理解し、必要な支援につながることが大切です。
身体の消耗も、心の不安に影響します
産後のメンタル不調を考えるとき、「心が弱いから」と見るのは、あまりにも乱暴です。
産後のママの身体は、大きな回復期にあります。妊娠、出産、授乳、睡眠不足、栄養の消耗、血糖の乱れ、自律神経の過緊張。こうした身体の土台が不安定になると、脳も不安を感じやすくなることがあります。
機能性医学では、心と身体を切り離して考えません。
鉄、タンパク質、ビタミンB群、マグネシウム、脂肪酸、血糖の安定、腸の状態、炎症、自律神経、睡眠。これらはすべて、産後の心の安定を支える土台として大切です。
もちろん、栄養を整えれば産後OCDが治る、という単純な話ではありません。産後OCDには、認知行動療法や専門的な医療支援が必要になることもあります。
それでも、「心の問題」とだけ片づけず、身体の消耗を一緒に見ていくことは、回復の支えになる可能性があります。
神戸市北区のもみの木治療院では、産後ケアにおいて、骨盤や身体の痛みだけでなく、睡眠、自律神経、栄養状態、育児中の疲労感なども含めてお話をうかがうことを大切にしています。当院では、女性施術者が産後ケアを担当しており、出産・育児経験があるため、表面的なきれいごとではなく、本音を話しやすい空気づくりを心がけています。
また、産後の身体や心に関する知識は常にアップデートしながら、鍼灸院としてできる身体面のサポート、機能性医学的な視点からの生活・栄養面の整理を行っています。
すぐに相談してほしい場合もあります
ここまで、「怖い考えが浮かぶこと」と「それを望んでいること」は別だとお伝えしてきました。
ただし、注意が必要な場合もあります。
たとえば、自分や赤ちゃんを傷つける具体的な計画がある、考えが命令のように感じる、幻聴や妄想がある、現実感が大きく崩れている、何日も眠れず極端に興奮している、自分を消したい気持ちが強い。そのような場合は、侵入思考としてひとりで抱え込まず、すぐに産科、精神科、救急、地域の相談窓口などにつながってください。
これは怖がらせたいから書いているのではありません。
本当に必要なときに、必要な支援につながってほしいからです。
産後のママは、赤ちゃんを守る人である前に、ママ自身も守られるべき人です。
あなたは、ひとりではありません
もし今、この文章を読んで涙が出ているなら。
「私だけじゃなかった」と少しでも思えたなら。
どうか、今日だけでも自分を責める手をゆるめてください。
怖い考えが浮かぶことは、あなたの愛情のなさを証明するものではありません。母親失格の証拠でもありません。赤ちゃんを大切に思っているからこそ、その考えに傷つき、怖くなっているのかもしれません。
あなたは危ない母親なのではなく、苦しんでいる母親なのかもしれません。
そして、苦しんでいる人には、責める言葉ではなく、支えが必要です。
産後OCD・侵入思考は、正しく理解されるべきものです。誰にも言えないまま、ひとりで抱え続ける必要はありません。
少しずつでかまいません。
信頼できる人に話す。
産科や心療内科、精神科、助産師、保健師に相談する。
必要であれば、認知行動療法などの専門的な支援につながる。
そして、身体の回復、睡眠、栄養、自律神経の状態も一緒に整えていく。
回復は、「ひとりで頑張ること」ではありません。
助けを受け取ることから始まることもあります。
このシリーズが、誰にも言えない怖い考えに苦しむママにとって、小さな安心の灯りになりますように。
参考文献
Perinatal Obsessive–Compulsive Disorder
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