【産後に貧血、鉄不足】第8回 胃腸と炎症が鉄を邪魔すること

08 胃腸と炎症が鉄を邪魔すること

第8回 胃腸と炎症が鉄を邪魔すること

産後の疲れが続いている時、「鉄を摂った方がいいのかな」と考える方は多いと思います。

赤身の肉を意識する。あさりやしじみを食べる。鉄のサプリメントを飲んでみる。できる範囲でがんばっているのに、なかなか体が変わらない。

そんな時、「私のやり方が悪いのかな」「もっとちゃんと食べないといけないのかな」と、自分を責めてしまう方がいます。

でも、鉄は「食べたらそのまま使える」ものではありません。口から入った鉄は、胃腸で受け取られ、血液で運ばれ、必要な場所で使われていきます。つまり、胃腸が疲れていたり、体の中に炎症が残っていたりすると、鉄を摂っていても、思うように体が使えないことがあります。

産後の体は、出産という大きな出来事のあと、休む間もなく赤ちゃんのお世話に入ります。眠れない。食事が不規則になる。胃腸が重い。便秘や下痢がある。乳腺トラブルが続く。体のどこかに痛みがある。

そのような状態では、鉄不足だけを見るのではなく、鉄を受け取る胃腸と、鉄を使う体の環境まで見ていくことが大切です。


胃腸が疲れていると、鉄は入りにくくなります

鉄は、主に小腸で吸収されます。

けれど、その前に、食べたものをきちんと消化する力が必要です。胃で食べ物を受け止め、腸で吸収しやすい形にしていく。その流れがうまく働いて、はじめて鉄は体の中に入っていきます。

産後は、この胃腸の働きが落ちやすい時期です。

赤ちゃんが泣けば、食事の途中でも立ち上がる。抱っこしながら急いで食べる。冷めたご飯を飲み込むように食べる。朝は食べられず、昼はパンだけ、夜は疲れて甘いものに手が伸びる。

これは、産後のお母さんが怠けているからではありません。それだけ毎日が大変なのです。

ただ、こうした食べ方が続くと、胃腸は休まりにくくなります。胃もたれ、食欲不振、便秘、下痢、お腹の張りがある時は、鉄を摂っても吸収しにくかったり、鉄サプリメントで胃腸症状が出やすくなったりすることがあります。

だから、鉄を摂っても変わらない時は、「鉄の量が足りない」とだけ考えるのではなく、「胃腸が受け取れる状態かどうか」を見てあげることが大切です。


炎症があると、鉄を使いにくくなることがあります

もうひとつ大切なのが、炎症です。

炎症というと、熱が出る、赤く腫れる、強い痛みがある、というイメージがあるかもしれません。もちろん、そういう炎症もあります。けれど、体の中では、もっと小さな炎症や回復途中の反応が続いていることもあります。

出産後の体は、組織を修復しています。睡眠不足が続くと、体は休みにくくなります。乳腺炎や乳房の張り、傷の痛み、胃腸の不調、慢性的なストレスがあると、体はいつも少し緊張した状態になります。

このような炎症やストレスが続くと、体は鉄の扱いを慎重にします。

鉄は体にとって必要なものですが、同時に扱い方が難しい栄養でもあります。感染や炎症がある時、体は鉄を自由に使わせすぎないように調整します。その調整に関わるもののひとつが、ヘプシジンという物質です。

ヘプシジンが高くなると、腸から鉄を吸収しにくくなったり、体の中にある鉄を必要な場所で使いにくくなったりすることがあります。

つまり、鉄を摂っているのに変わらない時、体は「鉄が足りない」だけでなく、「今は鉄をうまく使える状態ではない」という反応をしている可能性があります。


フェリチンの数字も、炎症の影響を受けます

鉄の状態を見る時によく使われるのが、フェリチンです。フェリチンは、体の鉄の貯金を見る目安になります。

フェリチンが低い時は、鉄の余裕が少ないと考えやすいです。産後の疲労感、めまい、動悸、イライラ、眠っても回復しない感じがある時には、確認しておきたい項目です。

ただし、フェリチンは少し注意が必要な検査でもあります。

フェリチンは鉄の貯金を反映する一方で、炎症がある時にも高めに出ることがあります。産後早期は、出産による組織の回復や炎症反応の影響を受けることがあります。そのため、フェリチンが高めだからといって、必ずしも鉄に余裕があるとは言い切れない場合があります。

ここが、産後の鉄を見る難しいところです。

ひとつの数値だけで決めつけるのではなく、ヘモグロビン、赤血球の大きさ、鉄の運ばれ方、炎症の有無、出産時の出血量、授乳状況、食事、胃腸の状態、睡眠、自律神経の状態を合わせて見ることが大切です。

機能性医学では、このように「数値が正常かどうか」だけではなく、その人の体が鉄を吸収し、運び、使える状態にあるかを見ていきます。


胃腸を整えることも、鉄を助けるケアです

鉄不足というと、どうしても「鉄を増やす」ことに意識が向きます。

でも、産後の体では、鉄を入れる前に、胃腸を少し助けてあげることが大切な場合があります。

たとえば、食事の時に少しだけ深呼吸をしてから食べる。急いで飲み込むのではなく、最初の数口だけでもよく噛む。冷たいものばかりで胃が重い時は、温かい味噌汁やスープを足す。パンや甘いものだけで済ませる日が続く時は、卵、魚、豆腐、納豆などを少し加える。

大きなことをしなくても大丈夫です。

産後のお母さんに、完璧な食生活を求めるのは現実的ではありません。赤ちゃんを見ながら、自分の食事まできれいに整えるのは、とても大変です。

だから、目指すのは完璧ではなく、回復の材料を少しずつ戻すことです。

胃腸が少し落ち着くと、鉄だけでなく、たんぱく質、ビタミン、ミネラルも受け取りやすくなります。体に材料が入ってくると、エネルギーを作る力や、自律神経の安定にもつながりやすくなります。


鉄を増やす前に、体の声を聞いてみる

鉄サプリメントが必要な方もいます。産後貧血がある場合、医療機関で鉄剤を処方されることもあります。それ自体は大切な治療です。

ただ、自己判断で鉄を増やし続けることはおすすめしません。

胃腸に合わない方もいます。便秘や胃もたれが強くなる方もいます。炎症がある場合、鉄を摂っても思うように使えないこともあります。体の状態によっては、鉄だけでなく、胃腸、睡眠、血糖、甲状腺、自律神経、たんぱく質不足などを一緒に見た方がよいことがあります。

鉄を摂っても変わらない時は、「もっと頑張らないと」と考えるより、「体はどこで困っているのだろう」と見直してみることが大切です。

強いめまい、息切れ、動悸、出血が続く、気分の落ち込みが強い、眠れない状態が続く場合は、無理をせず医療機関で相談してください。産後の不調には、早めに確認した方がよいものもあります。

そのうえで、体の土台をどう整えるかを考えると、回復の道筋が見えやすくなります。


鉄を邪魔しているものが見えると、希望が見えてきます

鉄を摂っても変わらない時、落ち込む必要はありません。

それは、あなたの努力が足りないという意味ではありません。体が「鉄だけではなく、胃腸や炎症も見てほしい」と教えてくれているのかもしれません。

産後の体は、いくつもの負担を同時に抱えています。出産で失ったもの。眠れない毎日。授乳による消耗。食事をゆっくり取れない生活。家族には言いにくい疲れ。体の中に残る炎症や緊張。

その全部を抱えながら、毎日赤ちゃんを育てています。しんどくなるのは、当然のことです。

神戸市北区のもみの木治療院では、鍼灸院として体の緊張や自律神経の状態を見ながら、機能性医学の視点も取り入れて、産後の不調を一緒に整理しています。

女性施術者は出産・育児の経験があり、産後の疲れ、胃腸の不調、授乳中のしんどさ、家族には言いにくい本音も話しやすい環境を大切にしています。産後ケアは片手間ではなく、鉄、胃腸、炎症、血糖、睡眠、甲状腺、自律神経など、知識を常にアップデートしながら見ることが必要です。

三田市や神戸市北区周辺で、鉄を意識しているのに疲れが抜けない、胃腸の調子が悪い、産後の体がなかなか戻らないと感じている方は、ひとりで抱え込まなくて大丈夫です。

鉄を邪魔しているものが見えてくると、次に整える場所も見えてきます。

体を責めるのではなく、体が回復しやすい順番を一緒に探していきましょう。


参考文献

Current concepts in postpartum anemia management

Iron deficiency without anaemia: a diagnosis that matters

Hepcidin and Iron in Health and Disease

Treatment for women with postpartum iron deficiency anaemia


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