【赤ちゃんの脳と身体と発育と】第9回 赤ちゃんはなぜ同じ動きを何度もくり返すのか

第9回 赤ちゃんはなぜ同じ動きを何度もくり返すのか
赤ちゃんを見ていると、「どうして同じことを何度もするのだろう」と感じることがあります。
足をバタバタする。
同じように手を振る。
何度も寝返ろうとする。
おもちゃを持っては落とす。
机をトントンたたく。
身体をゆらゆら揺らす。
ぴょんぴょん跳ねる。
同じ声を何度も出す。
大人から見ると、「また同じことをしている」「飽きないのかな」と思うかもしれません。
でも、赤ちゃんにとって、同じ動きをくり返すことは、とても大切な学習です。
赤ちゃんは、まだ言葉で考えて身体を動かしているわけではありません。動いてみる。感覚が返ってくる。また動いてみる。前と少し違う感覚が返ってくる。そのくり返しの中で、脳と身体のつながりが少しずつ育っていきます。
今回は、「赤ちゃんはなぜ同じ動きを何度もくり返すのか」をテーマに、小脳、リズム、運動学習、感覚フィードバックという視点から、発達のしくみをやさしくお話しします。
赤ちゃんは、くり返しながら身体を覚えています
大人は、何かを覚えるときにくり返します。
自転車に乗る練習。
楽器の練習。
スポーツのフォーム。
字を書く練習。
料理の手順。
車の運転。
最初はぎこちなくても、何度もくり返すうちに、だんだんスムーズになります。
赤ちゃんも同じです。
ただし、赤ちゃんの場合は、もっと根本的なところから始まっています。
足を動かすと、どんな感覚が返ってくるのか。
手を伸ばすと、どこまで届くのか。
身体を横に向けると、景色がどう変わるのか。
おもちゃを落とすと、どんな音がするのか。
机をたたくと、手にどんな振動が返るのか。
声を出すと、お母さんがどんな顔をするのか。
赤ちゃんは、くり返すことで、自分の身体と世界の関係を学んでいます。
ですから、同じ動きを何度もすることは、単なる退屈な反復ではありません。
赤ちゃんにとっては、脳と身体の確認作業です。
動くと、必ず感覚が返ってきます
赤ちゃんが手足を動かすと、身体の中ではさまざまな感覚が起こります。
足を伸ばすと、筋肉や関節から感覚が入ります。
手を握ると、手のひらや指から感覚が入ります。
身体を揺らすと、耳の奥の前庭感覚が働きます。
床に手をつくと、手のひらに圧が入ります。
おもちゃを落とすと、音と視覚の変化が起こります。
この「動いた結果として返ってくる感覚」を、脳は受け取っています。
機能神経学では、運動は一方通行ではないと考えます。
脳が身体を動かす。
身体から感覚が脳へ戻る。
その感覚をもとに、次の動きを調整する。
このくり返しです。
赤ちゃんの足バタバタ、手を振る、身体を揺らす、何度も同じ動きをするという行動も、この感覚と運動のやり取りの中にあります。
「動かす」ことと「感じる」ことは、別々ではありません。
赤ちゃんは、動くことで感じ、感じることでまた動けるようになっていきます。
小脳は、動きの誤差を調整しています
同じ動きをくり返すとき、重要になる脳の部位のひとつが小脳です。
小脳は、バランス、姿勢、運動のなめらかさ、タイミング、リズム、誤差の修正に関わります。
たとえば、赤ちゃんが手を伸ばしておもちゃを取ろうとします。
最初は届かない。
少し手前で止まる。
横にずれる。
つかめても落としてしまう。
次は少し角度を変えて伸ばす。
また試す。
このくり返しの中で、脳は「どれくらい手を伸ばせばよいか」「どれくらい力を入れればよいか」を学んでいきます。
小脳は、このような運動の誤差を調整する働きに関わります。
大人でいえば、ボールを投げる、字を書く、箸を使う、階段を上るといった動きも、くり返しの中で誤差を修正して上達します。
赤ちゃんの場合、その一番初期の練習が、手足のバタバタ、寝返りの試行錯誤、同じ動きの反復として現れます。
同じ動きを何度もしているように見えても、脳の中では毎回少しずつ情報が更新されているのです。
リズムは、脳と身体をつなぐ大切な要素です
赤ちゃんはリズムが好きです。
抱っこの揺れ。
歩くリズム。
子守歌。
手遊び歌。
足をバタバタするリズム。
机をトントンたたくリズム。
ぴょんぴょん跳ねるリズム。
リズムには、赤ちゃんの脳と身体をつなぐ働きがあります。
一定のリズムがあると、次に何が起こるかを予測しやすくなります。
次に揺れる。
次に音が鳴る。
次にお母さんが笑う。
次に身体が上下する。
このような予測ができると、赤ちゃんの神経系は安心しやすくなることがあります。
もちろん、すべての赤ちゃんが同じリズムで落ち着くわけではありません。速いリズムで興奮する子もいれば、ゆっくりしたリズムで眠くなる子もいます。音に敏感な子もいれば、歌や声で落ち着く子もいます。
それでも、リズムは発達の中で大切な要素です。
赤ちゃんが同じ動きをくり返すことには、身体のリズムを作り、感覚と運動を結びつける意味があると考えられます。
何度も落とすのは、困らせたいからではありません
赤ちゃんが成長してくると、おもちゃやスプーンを何度も落とすことがあります。
拾ってあげる。
また落とす。
また拾う。
また落とす。
お母さんは疲れているので、「もうやめて」と思うこともあります。
でも、赤ちゃんにとってこれは、かなり面白い学習です。
手を離すと、物が落ちる。
落ちると音がする。
床に当たると跳ねる。
お母さんが拾ってくれる。
また手元に戻ってくる。
もう一度試せる。
これは、重力、音、視覚、手の操作、人とのやり取りが組み合わさった学習です。
「落とす」という動きひとつにも、赤ちゃんの脳にとっては多くの情報があります。
大人にとっては面倒な反復でも、赤ちゃんにとっては「世界の法則」を確かめる実験のようなものです。
もちろん、食事中に毎回すべて付き合う必要はありません。お母さんが疲れきっているときは、無理に応じなくても大丈夫です。
ただ、「困らせようとしている」のではなく、「確かめている」と分かるだけでも、少し見え方が変わるかもしれません。
同じ声をくり返すことも、発達の一部です
赤ちゃんは、声もくり返します。
あー。
うー。
ばばば。
ままま。
だだだ。
同じ音を何度も出します。
これは、言葉の練習というだけでなく、口、舌、喉、呼吸、聴覚のやり取りでもあります。
声を出す。
自分の声が聞こえる。
お母さんが反応する。
もう一度声を出す。
口の形を変える。
音が変わる。
このくり返しによって、赤ちゃんは声を出す身体の使い方を学びます。
ここでも、運動と感覚の関係があります。
口や舌を動かす運動。
呼吸の調整。
声の振動。
聞こえる音。
相手の反応。
赤ちゃんの発達は、運動だけ、言葉だけ、感情だけに分けられるものではありません。身体を動かし、感覚を受け取り、人と関わる中で、脳と心が育っていきます。
反復行動を、すぐに問題と決めつけないこと
赤ちゃんが同じ動きをくり返すと、インターネットで調べて不安になる方もいます。
「同じ動きを何度もするのは発達障害ですか」
「手をひらひらするのは大丈夫ですか」
「物を回すのが好きなのは問題ですか」
こうした不安は、とても自然です。
ただ、赤ちゃんや幼い子どもは、発達の過程で同じ動きをくり返すことがあります。すべての反復行動が問題というわけではありません。
大切なのは、反復そのものだけを見るのではなく、全体を見ることです。
・人への関心があるか
・目が合うか
・声や表情への反応があるか
・名前を呼ぶと反応するか
・遊びの幅が広がっているか
・動きが発達とともに変化しているか
・極端にやめられない様子があるか
・自分を傷つけるような動きがあるか
・発達の後退がないか
反復行動は、発達の中でよく見られる側面もあります。一方で、極端に強い、年齢が進んでも増えていく、社会的な関わりが乏しい、言葉や反応の遅れがある、保護者の違和感が続く場合には、小児科や発達相談で確認することも大切です。
不安をあおる必要はありません。
でも、気になることを相談することは悪いことではありません。
赤ちゃんは、予測できることに安心します
赤ちゃんは、まだ世界のことをよく知りません。
何が起こるか分からない。
眠いのに眠れない。
お腹がすいた。
音が大きい。
姿勢が変わった。
抱っこから布団に置かれた。
こうした小さな変化でも、赤ちゃんにとっては大きな出来事です。
その中で、くり返しは安心につながることがあります。
いつもの抱っこ。
いつもの声。
いつもの子守歌。
いつもの寝る前の流れ。
いつもの揺れ。
いつもの手遊び。
同じことがくり返されると、赤ちゃんは「次に何が起こるか」を少しずつ予測できるようになります。
予測できることは、安心につながります。
これは、自律神経の面でも大切です。赤ちゃんはまだ自分で興奮を下げたり、安心した状態に戻ったりする力が未熟です。そのため、一定のリズムや見通しのある関わりが、落ち着く助けになることがあります。
育児では、毎日きっちり同じにする必要はありません。
でも、寝る前の流れ、抱っこのリズム、声のかけ方などに、少しだけ「いつもの安心」があると、赤ちゃんの神経系は落ち着きやすくなるかもしれません。
機能神経学的に見ると、反復は神経回路を育てる経験です
機能神経学では、脳は使われることで変化していくと考えます。
もちろん、赤ちゃんの発達は単純なトレーニングではありません。無理に何かを何百回もさせればよい、という話ではありません。
ただ、赤ちゃん自身が自然にくり返す動きには、神経回路を育てる意味があります。
足を動かす。
手を伸ばす。
身体を揺らす。
寝返りを試す。
声を出す。
おもちゃを触る。
落とす。
また試す。
こうした反復の中で、感覚入力と運動出力が何度も結びつきます。
脳幹は、姿勢や覚醒の土台に関わります。
小脳は、動きの調整や誤差修正に関わります。
前庭感覚は、揺れや重力を伝えます。
固有感覚は、身体の位置を伝えます。
視覚や聴覚は、動いた結果を教えてくれます。
赤ちゃんは、全身を使いながら、脳の回路を少しずつ育てています。
だから、赤ちゃんの動きを見るときは、「できたか、できないか」だけでなく、「どんなふうに試しているか」「どんな感覚を受け取っているか」を見ることが大切です。
家庭でできることは、無理に増やすことではなく、見守ること
赤ちゃんの反復が発達に大切だと聞くと、「もっと練習させたほうがいいのかな」と思うかもしれません。
でも、家庭で大切なのは、無理に反復させることではありません。
赤ちゃんが自分で試せる環境を作ることです。
・安全な床のスペースを作る
・手足を自由に動かせる時間を作る
・月齢に合ったおもちゃを少し離して置く
・音や光の刺激を強くしすぎない
・赤ちゃんの反応に合わせて声をかける
・同じ遊びを何度もしたがるときは、余裕のある範囲で付き合う
・疲れてきたら休ませる
・嫌がる動きは無理に続けない
赤ちゃんの発達は、強制ではなく探索です。
赤ちゃんが「もう一回」と身体で言っているとき、それは脳が学んでいる時間かもしれません。
ただし、お母さんが疲れきっているときまで、すべてに応じる必要はありません。育児は毎日続きます。お母さんの体力と心の余裕も大切です。
機能性医学的に見ると、くり返しの質には身体の状態も関係します
赤ちゃんが同じ動きをくり返す背景には、脳と身体の学習があります。
一方で、身体の不快感があると、反復の質が変わることもあります。
お腹が張って落ち着かない。
便が出にくくて身体に力が入る。
皮膚がかゆくて同じ場所をこする。
眠りが浅くて興奮しやすい。
刺激が多すぎて身体を揺らして落ち着こうとする。
鼻づまりで睡眠が浅い。
授乳後に苦しそうに反る。
このような場合、同じ動きが単なる学習ではなく、不快感への反応として出ていることもあります。
機能性医学では、ひとつの行動だけで判断せず、消化、睡眠、皮膚、栄養、環境、自律神経、ストレスなど、身体全体の背景を見ていきます。
赤ちゃんの動きも、お母さんの産後の不調も、ひとつの原因だけで説明できないことが多いです。
神戸市北区・三田市周辺で、赤ちゃんの発達や産後の身体の不調が気になる方は、一人で抱え込まないでください。
もみの木治療院では、女性施術者が出産・育児経験をふまえて、育児中のお悩みを伺っています。鍼灸院として身体の緊張や自律神経を見ながら、機能性医学の視点で、睡眠、栄養、疲労、消化の背景も大切にしています。
お母さんも「同じことのくり返し」で疲れています
赤ちゃんは、同じことを何度もくり返して学びます。
でも、お母さんにとっては、そのくり返しが疲れになることもあります。
何度も抱っこする。
何度も授乳する。
何度も寝かしつける。
何度もおもちゃを拾う。
何度も泣きに対応する。
何度も夜中に起きる。
赤ちゃんにとって大切な反復でも、お母さんの身体には負担です。
首こり、肩こり、腰痛、手首の痛み、頭痛、めまい、睡眠不足。産後の身体でこれが続くと、気力だけでは追いつかなくなります。
「赤ちゃんのためだから仕方ない」と思って我慢し続けるお母さんは少なくありません。
でも、お母さんの身体が限界になると、赤ちゃんの反応をゆっくり見る余裕も失われてしまいます。
赤ちゃんの発達を支えるためには、お母さんの回復も必要です。
赤ちゃんのくり返しは成長のサイン。
お母さんの疲れは、ケアが必要なサイン。
どちらも大切にしてよいのです。
今回のまとめ
赤ちゃんが同じ動きを何度もくり返すのは、単なる退屈な反復ではありません。
足を動かす、手を伸ばす、身体を揺らす、おもちゃを落とす、声を出す。こうした行動の中で、赤ちゃんは動きと感覚の関係を学んでいます。
小脳は、動きの誤差を調整し、リズムやタイミングにも関わります。前庭感覚や固有感覚は、身体の位置や動きを脳に伝えます。赤ちゃんは、くり返しながら自分の身体と世界を理解していきます。
ただし、反復行動だけを見て、すぐに良い悪いを判断する必要はありません。大切なのは、社会的な反応、遊びの広がり、発達の変化、左右差、不快感、保護者の違和感などを全体で見ることです。
極端に強い反復、自分を傷つける動き、発達の後退、人への反応の乏しさなどが気になる場合は、小児科や発達相談につなげてください。
赤ちゃんは、くり返しながら学んでいます。
そして、お母さんは、そのくり返しを支えながら毎日頑張っています。
次回は、「抱っこで泣き止む理由は、甘えだけではありません」をテーマに、触覚・圧刺激・匂い・声がつくる安心の神経回路についてお話しします。
参考文献
Open-ended movements structure sensorimotor information in early human development
Prediction signals in the cerebellum: Beyond supervised motor learning
Infants show systematic rhythmic motor responses while listening to rhythmic speech
CDC’s Developmental Milestones
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